ロフトワークディレクター石川由佳子× 「図案」

「企て屋」の私が見つけた、
自分と対話する場所

INTERVIEW
「ロフトワーク」ディレクター 石川由佳子

上智大学卒。ドイツで暮らしていた経験から、日本の都市のあり方や人の営みについて、その現象が起こっている“源”に関心を持ち、都市社会学を専攻。ベネッセコーポレーションのマーケティング部門で編集ディレクションに携わったのち、ロフトワーク入社。広義の「場」のデザインを得意とし、渋谷の都市づくりをボトムアップ型で実践していく「Shibuya Hack Project」や、共創空間のディレクションを中心にプロジェクトを推進。都市と空間ディレクションを専門とするLAYOUT unitに所属し、「都市」をテーマに活動中。

「企(くわだ)て屋です」
組織や地域の課題をクリエイティブの力で解決する、クリエイティブ・エージェンシー「ロフトワーク」のディレクター石川由佳子さんは、自分の仕事をこう説明します。

ブランドや大学のWebディレクション、「茨城県北芸術祭」のクリエイティブ・ディレクション、場のデザインから運営まで出がける「100BANCH」、そして石垣島や飛騨といった地域の活性化まで、さまざまなプロジェクトを展開する同社の中で、石川さんはどのような「企て」を行っているのでしょうか? 

石川さんの手元にある膨大な図案スケッチブックには、これまで行ってきたさまざまな「企て」の構想が描かれていました。

 石川さんが使っている図案スケッチブックを拝見すると、プロジェクトがロジカルにまとめられていますね。

石川これは、今メインで手がけている、2020年に向けた都市開発プロジェクト「Shibuya Hack Project」です。クライアントから「渋谷にシビックプライド(街に対する愛着や誇り)をつくりたい」という依頼によってスタートしたのですが、Webサイトやイベントなど成果物のあるものと違い、「どうやったら実現できるか」はまったくのゼロベースです。最初は思考の断片を雑多な言葉で書きながら、最終的に図にして整理していくのですが、このページでは「ああでもない、こうでもない」と構想を悩んでいたときの気持ちが出ていますね。

思考の断片を書き、図式化し、戦略を考案していくことによって、スケッチブックの中でプロジェクトの構想を育てていくんです。

スケッチブックという「土壌」から、プロジェクトが育っていくんですね。ところで、石川さんはロフトワークでどのようなお仕事をされているのでしょうか?

石川私の専門は「Shibuya Hack Project」のような「場づくり」や「都市づくり」といった領域です。このプロジェクトでは大規模に変わりつつある渋谷の街をテーマに、開発の中で失われてしまう文化や、これまで知られていなかった街の魅力をクローズアップする。

それによって、企業や行政によるトップダウンの開発だけでなく、市民やクリエイターのひとりひとりがボトムアップで都市に関わる機会をつくるというものです。たとえば路上空間を居心地のいいものにしていくために、建築家のチームとともに家具をつくり、それを路上に設置することで、家具で街をハックするというプロジェクトを行いました。

さらに、このプロジェクトが、これまでゴミが多く捨てられていた道玄坂の花壇をハックするという試みに発展しています。現在、自分のスキルを役立てることができるクリエイターなど20人を集め「新しい花壇」という、いわゆる公共空間をつくる実験を行っているんです。

一般的なビジネスのプロジェクトというよりも、アートプロジェクトのようなものに近い発想ですね。

石川また「Shibuya Hack Project」の一環で行った「シブヤヒミツクラブ」というプロジェクトでは、「街を劇場にする」というテーマのもと、百軒店・円山町といったエリアに4つの秘密を仕込み、参加者がそれを探すために街に迷い込みました。渋谷で「迷子になる」ことによって、「こんな場所があったんだ」「こんな形で街を見ることができるんだ」と、参加者に、渋谷に対する新たな視点を生み出しました。

開発というマクロな視点からではなく、人との関わりというミクロな視点から街を見ることによって、渋谷の見え方がガラッと変わってしまうんですね。

石川私の仕事は、街の使い方をカタチにして見せること。これらの活動を行うことで、「街ではこんなことができる」という可能性をあぶり出しています。今、プロジェクトは3年目を迎えたのですが、ここからはこれまでのプロセスを踏まえて、具体的に区に提言をしたり、実際に街の仕組みをつくっていくという段階に入っています。

では、そんなプロジェクトを通して、石川さん自身はどのように街を変えたいと考えていますか?

石川プロジェクトを展開していくと、渋谷という街の中には、日常の中に非日常な何かが紛れ込んでいて、「偶然性」や「予測できなさ」が魅力であることに気付かされます。
そんな側面から渋谷を味わうことで、みんなの帰り道がおもしろくなってほしいというのが私の願いですね。

近年、渋谷に限らず、街の中にはそういった偶然の出会いはどんどん減っている。けれども、都市の自由度を上げ、街がおもしろくなれば、そこに生活する人・集まる人も豊かな暮らしをすることができるようになるはず。

私のスケッチブックには、そのための「企て」がたくさん書き込まれているんです。

石川さんにとって、スケッチブックはどのような存在でしょうか?

石川スケッチブックに向き合っている瞬間は「自分との対話」をしていますね。自分が何を考え、どういうものをつくりたいのか、どういうものを形にしたいのかを外に出し、形を与えていく場所なんです。

図にして外に出すことで、どこにヒントがあるのか、どこに繋がりがあるのかを、近づいたり遠ざけたりしながら客観的に見ることができるんですよね。

思考を書き出すために、多くのビジネスパーソンは方眼紙を選びますよね。あえてスケッチブックを使うことによるメリットは?

石川私がスケッチブックを使っているときは、「書いている」ではなく「描いている」という感覚に近いんです。メモをしてお勉強するのではなく、頭の中をスケッチするように自由に描きます。

だから、私にとってはスケッチブックが適切なのでしょうね。また、図式化することで関係性を整理すると同時に、イラストを少し入れることで、その時の温度や状況の痕跡をなるべく残すようにしています。

石川さんのスケッチブックを拝見すると、頭の中にプロジェクトの全体像がすっと入ってきますね。

石川 ミーティングの場で議事録を書くことってよくありますよね? そんな時は、PCでテキストにまとめるのではなく、スケッチブックで図にまとめるのがオススメ。テキストは理解していなくても書けますが、図は理解し、解釈しないと描けない。プロジェクトの複雑な関係性や、その中でも何が大切かといったことを自分で解釈しながら言葉や図をつくっていかなければならないんです。

 石川さんは、ビジネスの現場でスケッチブックを使いはじめてどれくらいでしょうか?

石川 3年前、ロフトワークに入ってから仕事で図案を使い始めるようになりました。すでに20冊くらい使っているのですが、使用済みのものも全部保管してあります。

過去のスケッチブックを見返すと、実は本質的なことが書かれていたり、こういうことで悩んでいたのか、という発見があり、これからの仕事に活用できるヒントがいっぱい詰まっているんです。

渋谷の話と同じように、過去のスケッチブックは「偶然の出会い」が起こる場所ですね。

スケッチブックを使うことによって、仕事の方法にも変化が起こっているのでしょうか?

石川自分の頭の中が整理されていくから思考が早くなったと感じます。またいろんなアイデアが常にストックされているという安心感もありますね。比喩ではなく365日毎日いっしょにいるし、バッグを選ぶときも図案スケッチブックが入る大きさのものを選ぶほどです(笑)。

他にもさまざまな文具がありますが、スケッチブックは石川さんの中で特別な存在なのでしょうか?

石川スケッチブックと同じくポストイットもよく使っているのですが、自分の中でポストイットは「言葉を雑に出すもの」「言葉を発散させるもの」という役割。一方、スケッチブックは言葉を収束したり、言葉の核を見つけるためのツールです。同じ言葉を書く時にも、役割はだいぶ違いますね。

スケッチブックを開くときは、いい意味での緊張感があります。普段から言葉を扱うことを大切にしているのですが、言葉や思考をまとめていく重さと、スケッチブックのしっかりとした紙に書く重さが、ちょうどいい具合にフィットしているんですよ。

 最後に、石川さんは、今後どのような仕事をしていきたいと考えていますか?

石川身体だけでなく、気持ちとしても自分の仕事に対してヘルシーな状態をキープしていきたいですね。必ずしも時間をかければいい仕事ができるわけではないし、執着しすぎるのも健康的ではない。仕事をしていく上での最適なバランスを模索しています。

そのためには「自分がこれからフォーカスをしていくものは何か?」「大切にしたいものは何か?」をきちんと見定めることが必要です。あっ、仕事とライフスタイルとのバランスを考えるためにも、図案スケッチブックに図を描いていくことは有効ですね(笑)。

取材・文:萩原雄太
撮影:加藤 甫
編集:横田大(Camp)

ミュージシャン奇妙礼太郎×「図案」

表現がどう生まれるかはわからない ただ無性に何かを描きたくなる瞬間がある

よく晴れた春の昼下がり、雑居ビルの屋上でスケッチブックの歌を奏でるのは、シンガーソングライターの奇妙礼太郎さん。今回、彼はマルマンからの「スケッチブックの歌をつくってほしい」という依頼を快諾し、ほぼ即興でその歌詞を図案スケッチブックに生み出し、カメラの前で出来たての曲を披露してくれました。

いろは出版代表・詩人 きむ× 「図案」

「呼吸をするように描ける」 発想のすべてを集約するモノ

京都の出版社・いろは出版の代表の木村行伸(きむ)さんは、一風変わった経歴を持つ人物です。詩人・きむとして発表しているポストカード作品は、ロフトや東急ハンズといった雑貨店で、累計販売数1000万枚以上を記録。また当初は自身の作品集を出版するためにスタートしたという、いろは出版の代表としても、本だけでなく、雑貨、似顔絵、ウェディング用品など、「出版」という領域を超え、さまざまな「ものづくり」に取り組んでいます。

「AIUEO」デザイナー 糸井侑× 「図案」

「思い出のスケッチを雑貨に」 込められた想いを、幸せを広げる

ゆったりとした時間が流れる京都市郊外の住宅街。すぐ隣を畑や小川が囲み、学校帰りの小学生が友だちと一緒に下校しているような街の一角に、雑貨や本を取り扱う「いろは出版」の本社はありました。 本だけでなく、雑貨やウェディンググッズなどさまざまなものを取り扱っている同社の中でも、特に、動物や人、くだものなどをモチーフにしたかわいらしいデザインの雑貨ブランド「AIUEO」の人気は高く、渋谷ヒカリエShinQsや大阪のNU茶屋町プラスなどにもショップがつくられるほど。そして、そんなブランドで雑貨デザインを担当しているのが、デザイナーの糸井侑(ゆき)さんです。

文具王高畑正幸× 「図案」

文具の国の王様 まっすぐな眼差しで世界をのぞむ

真っ赤な王冠を被って取材の席についたのは、「文具王」の異名を持つ高畑正幸さん。かつて、その道のマニアが日本一をかけて戦うテレビ番組『TVチャンピオン』(テレビ東京系)の「全国文房具通選手権」で3回にわたって優勝を飾った彼は、まさに文具王の名を冠するにふさわしい人物。 日本でもトップの文具マニアとして、文房具を紹介する記事の執筆や、トークショーへの出演、文房具の実演販売、そして、文房具マンガ『文具を買うなら異世界で!』(KADOKAWA)の監修まで、さまざまな側面から文房具の魅力を伝えています。

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